早稲田大学応用脳科学研究所

研究所の方針(創設当時)

現代社会は、産業構造の変化と経済活動の流動化、文化の発展が不可避的にもたらす環境問題、情報化の進展と仮想世界の影響力の増大、少子高齢化など、数多くの難題に直面している。これに対して、医学や生物学にとどまらず、薬学、化学、工学、情報学等の自然科学の多くの領域に波及効果を持つ脳科学研究の役割が期待されている。しかし、上記のような複雑な問題に対処するためには、個別の臓器としての脳の構造や機能についての研究を深めるだけはでなく、人文・社会科学分野まで含めた幅広い領域との連携・融合を積極的に進めながら、人間の総合理解を目指す「総合人間科学」を構築しそれに基づいた「応用脳科学」の発展を確かなものにする必要がある。

 上記のような現代の課題状況は、将に過去20年来、文理融合型の研究教育を進め、幅広い研究成果をあげてきた人間科学・スポーツ科学両学術院がその実力を発揮できる場と言える。そこで、本研究プロジェクトでは、現在までに蓄積してきた「脳と心の科学」のポテンシャルを、「応用脳科学」という軸に沿って有機的に結びつけながら大きく発展させ、具体的な成果として社会に還元することを目的とする。

研究概要

 現代社会は、産業構造の変化と経済活動の流動化、文化の発展が不可避的にもたらす環境問題、情報化の進展と仮想世界の影響力の増大、少子高齢化など、数多くの難題に直面している。その解決のために脳科学研究の役割が期待されているが、上記のような複雑な問題に対処するためには、個別の臓器としての脳の構造や機能についての研究を深めるだけではなく、人文・社会科学分野まで含めた人間の総合理解を目指す「総合人間科学」を構築しそれに基づいた「応用脳科学」の発展を図る必要がある。応用脳科学研究所は、このような現代社会をめぐる課題状況の下、重点領域研究機構(2009~2013年度)、総合研究機構(2014~2018年度)に所属する研究所として、人間科学学術院とスポーツ科学学術院が30年来蓄積してきた「脳と心の科学」のポテンシャルを「応用脳科学」という軸に沿って有機的に結びつけながら発展させ、具体的な成果として社会に還元することを目的として活動してきた。その結果、400件を超える論文や著書を発表し、統合データベースとして一覧できるようにするともに(http://opendb.iabs-waseda.net)、20回を超える一般公開の主催・共催・後援シンポジウム、研究会などの開催を実現してきた。

 本プロジェクト研究所は設立から10年が過ぎ、応用脳科学に関する当初の啓発的な役割はほぼ終えたと考えられるが、ここで活動を終えると、これまでに確立を図ってきた早稲田大学における応用脳科学研究基盤の活力が失われてしまう可能性がある。直近の数年間、研究の実施に関しては、それぞれの研究所員が自律的に活動する状況に移行していたが、年1回開催してきた研究成果発表会では、毎年30件近い発表がなされ、研究所員や研究室所属の若手研究者、招聘研究員の間の情報交換や共同研究の推進などに大きく寄与してきたと考えられる。そのため、これからも関係者間の協同作業を促進するプラットフォームとしての機能は維持しつつ、一旦これまでの活動を終了し、新たに参加者を募ることによって、新しい研究テーマへの取り組みも開始することとした。具体的には、大須、千葉、正木、東、松居が脳の機能自体の解明を進め、熊野、百瀬、掛山、原が脳機能と関連する研究課題への応用を図り、嶋田、菊池、可部、辻内が臨床心理学、言語情報科学、ロボット工学、医療人類学の領域へとさらに適用を進めるようにする。スポーツ脳科学研究所(正木所長)、環境医科学研究所(掛山所長)、災害復興医療人類学研究所(辻内所長)との共同研究も進める。